夕方になり、患者さんが続けて来局する。
受付では電話が重なり、監査待ちの処方箋も増えている。投薬中の薬剤師は手が離せず、新人から確認の声もかかる。
こういう時間帯でも、「仕事ができる人」がいる日は大きく崩れない。
その人は誰よりも速く調剤しているわけではありません。全部の電話を取るわけでも、困っている人の仕事を何でも引き受けるわけでもありません。
それでも、
「今は監査が詰まっているから、こっちを先にやろう」
「その電話は私が取るので、投薬をお願いします」
「入力までは終わっています。監査からお願いできますか?」
と、必要なところへ人や仕事を動かしていきます。
トラブルが起きても、「誰がやったの?」だけで終わらせず、「どこで抜けたんだろう?」と状況を見る。
こういう人と一緒に働いていると、周囲は自然に「仕事ができる人だな」と感じます。
この記事では、薬の知識量や処理速度だけではなく、薬局というチームの中で、周囲の仕事まで進みやすくする人が何をしているのかを見ていきます。
仕事ができる人は、自分の仕事だけを見ていない
午前中の混雑時間。自分の手元には薬歴が残っている。一方で受付に患者さんが続き、監査待ちも増え、電話も鳴っている。
ここで「まず自分の仕事を終わらせよう」と考えること自体は間違いではありません。
ただ、薬局全体を見ると、今一番流れを止めているのは別の場所かもしれません。
反対に、「みんな忙しそうだから」と目についた仕事を次々引き受けると、自分が持っていた仕事が後回しになり、今度はそこが詰まることもあります。
つまり必要なのは、単純な「気が利く」「周りを見る」ではありません。
自分の仕事を持ちながら、チームのどこで仕事が止まっているかも見ること。
現場で頼られる人は、この判断を小さく繰り返しています。
現場で「この人と働くと仕事が進みやすい」と感じる7つの行動
ここからは、「コミュニケーション能力が高い」「リーダーシップがある」といった抽象的な言葉ではなく、勤務中に実際に見える行動まで分けて考えます。
1.「誰が忙しいか」より「どこが詰まっているか」を見る
調剤事務は受付と電話対応。ひとりの薬剤師は投薬中。もうひとりは調剤を進めている。監査台には処方箋が数件並んでいる。
こんなとき、空いた人がさらに調剤へ入っても、監査待ちが増えるだけなら全体は進みません。
頼られる人は、
- どこに仕事が溜まっているか
- 何を待って次の工程が止まっているか
- 今、自分が入ると流れが変わる場所はどこか
- 自分が今している仕事は後に回せるか
を見ています。
監査が詰まっているなら監査へ入る。受付に患者さんが重なっているなら電話を取って受付側の手を空ける。
仕事量ではなく、仕事の流れを見る。
同じ10分動くとしても、この視点があるかどうかでチーム全体への影響は変わります。
2.仕事を渡すとき、「相手がそのまま動ける状態」にする
薬局では、途中まで進めた仕事を別の人へ渡す場面があります。
そこで意外と時間を使うのが、受け取った人が状況を把握し直す時間です。
「これお願いします」だけでは、
「どこまで終わっている?」
「何か変更があった?」
「急ぎ?」
「私はどこから始めればいい?」
と確認が必要になります。
一方、「入力までは終わっています。変更はありません。監査からお願いします」なら、相手はすぐ動けます。
さらに、「急ぎではないので、今の患者さんが終わってからで大丈夫です」と優先度まで添えれば、自分の仕事との順番も決めやすくなります。
大事なのは説明を長くすることではありません。
相手に余計な確認作業を増やさず、次の一手がわかる状態で渡すことです。
3.「言わなくてもわかるはず」を減らす
職場の人間関係ですれ違いを生みやすいのが、暗黙のルールです。
たとえば、「12時前後は投薬が重なるから、手が空いた人が電話を取る」という薬局。
長く働いている人には当たり前でも、新しく入った人にはわかりません。
それなのに、「普通これくらい気づくよね」と評価されれば、本人は何を基準に動けばいいのかわからなくなります。
「この棚は気づいた人が補充する」
「これは昼までに終わらせる」
「この作業は手の空いた薬剤師がする」
こうした「いつものやり方」は、意外と説明されていません。
頼られる人は何でもマニュアル化するわけではなく、人によって解釈が分かれそうなところだけ、必要な分を言葉にします。
言わなくても分かると思わず、「12時台は投薬が重なるので、その時間は手が空いた人が電話を取るようにしています」
と、はじめに伝えておくだけでも、「なんでやってないの?」「そんなの聞いてない」という摩擦を減らせます。
4.同じことでも、相手によって伝え方を変える
新人へ「いつも通りお願いします」と言っても、その人にはまだ「いつも通り」がありません。
反対に、何年も一緒に働いているスタッフへ毎回ゼロから説明すれば、「そこまで言われなくてもわかる」と感じることがあります。
新人なら、「今日はここまでお願いします。わからなければ、この段階で声をかけてください」と、任せる範囲まで伝える。
慣れている人なら、「ここだけいつもと違います」で十分かもしれません。
また、結論を先に聞いた方が動きやすい人もいれば、背景までわかった方が判断しやすい人もいます。
ここで見るのは、自分が説明したかではなく、相手が動ける状態になったか。
相手に合わせるとは、機嫌を取ることではありません。仕事が止まりにくい伝え方を選ぶことです。
5.ミスを「誰がやったか」だけで終わらせない
たとえば発注漏れが見つかったとします。
「昨日の担当は誰?」
「次から気をつけてください」
だけで終われば、その人自身は反省するでしょう。
でも、同じ条件が揃えば別の人にも起こる可能性があります。
そこで、
- 発注済みかどうか、ほかの人から見てわかったか
- 担当が曖昧になっていなかったか
- 忙しい時間帯に確認する運用になっていなかったか
- 発注対象を拾う基準が共有されていたか
まで見ます。
必要なら、発注済みに印をつける、確認時間を決める、担当を明確にするといった方法へ変える。
これはミスした人をかばうという話ではありません。
個人が直す部分は直す。そのうえで、個人の注意だけに頼らなくても起きにくくできないかを見る。
この視点があると、同じ問題を何度も「気をつけましょう」で終わらせずに済みます。
6.意見が違ったとき、「誰が正しいか」の勝負にしない
仕事のやり方について意見が分かれることはあります。
Aさんは、「受付した薬剤師が最後まで担当した方がわかりやすい」と考える。
Bさんは、「混んでいるときは途中でも別の人へ渡した方が早い」と考える。
ここで、
「そのやり方は非効率です」
「うちは昔からこうだから」
となると、仕事の方法の話が人同士の対立へ変わります。
頼られる人は、
「最後まで担当するメリットは何?」
「途中で渡した方がいいのは、どんな状況?」
と、方法を分けて考えます。
すると、「通常時はできるだけ担当を変えない。混雑時は途中から分担する」という別の方法が見つかるかもしれません。
人ではなく、方法を比較する。
意見が違うときにこの視点へ戻せる人がいると、改善の話を続けやすくなります。
7.「自分がやった方が早い」を続けない
新人へ任せるより、自分でやった方が早い。
中堅や管理薬剤師になるほど、こういう場面は増えます。
本当に忙しい10分間なら、自分が引き取る判断も必要でしょう。問題は、それが毎回続くことです。
新人が遅い
↓
経験者がやる
↓
新人の経験が増えない
↓
さらに任せられない
となれば、できる人へ仕事が集中します。
そこで、
- 繁忙中はいったん自分が対応する。
- 落ち着いたら、次は一部分だけ任せる。
- できたところを確認して、次に任せる範囲を増やす。
と分けます。
今日を早く終わらせることと数週間後に任せられる人を増やすことは、別の視点です。
自分が多くの仕事をこなすだけでなく、チームの中のできる人を増やしていく。ここも、現場で大きな差が出るところです。
「頼られる」の形は一つではない
ここまでの7つを、すべて同じように得意である必要はないですし、そんなスーパーマンはなかなかいません。
薬局の中では、それぞれ違う形で頼られている人たちがいます。
全体を調整するのは苦手でも、後輩から相談されやすい人がいます。
人を教えることは得意ではなくても、業務の無駄を見つけて改善できる人もいます。
同じ「頼られる」でも、その理由は人によって違います。
仕事ができる人を見るなら、「仕事量」よりここを見る
身近に「この人、仕事ができるな」と感じる人がいるなら、処方箋を何枚処理したかだけでなく、仕事と人をどうつないでいるかを見てみてください。
特に観察しやすいのは4つです。
- 忙しくなったとき、最初にどこを見ているか
- 人へ仕事を渡すとき、何を伝えているか
- 意見が違ったとき、どう話を戻しているか
- 後輩に、どこまで任せてどこで支えているか
例えば、先輩が新人へ仕事をお願いする場面。
「これお願い」と言う前に、何を説明しているでしょうか。
どこまで任せて、どの段階で声をかけてほしいと伝えているでしょうか。
こうした部分は、処理速度ほど目立ちません。
でも、「仕事ができる人のやり方」を自分へ取り入れるなら、結果よりこちらを見る方が具体的です。
自分は、どんな形でチームに貢献しやすい?
同じ薬局で働いていても、自然に取りやすい動きは人によって違います。
- 困っている場所を見つけたら、まず自分で動く人。
- 状況を整理してから、誰が何をするか考える人。
- 一人ひとりに声をかけて、情報をつなぐのが得意な人。
- 問題が繰り返されると、「仕組みを変えた方がいい」と考える人。
薬局タイプ診断では、「仕事ができる・できない」を判定するのではなく、自分がどのように考え、どんな動きを取りやすいのかを整理します。
誰か一人の「できる薬剤師像」に近づくだけではなく、自分なら、どんな形でチームに貢献しやすいだろう?と考える材料にしてみてください。
まとめ|「この人と働くと進みやすい」には理由がある
仕事の詰まりを見る。相手が動ける形で仕事を渡す。暗黙のルールを必要なところだけ言葉にする。問題が起きたら、人だけでなく仕組みも見る。
一つひとつは派手な行動ではありません。
それでも積み重なると、
「この人には仕事を頼みやすい」
「困ったときに相談しやすい」
「一緒に勤務すると仕事が回りやすい」
という信頼につながります。
まずは身近な「仕事ができる人」が、自分の仕事以外のところで何をしているかを一度見てみてください。
そこから、自分にも取り入れられる行動が見つかるはずです。